beachmollusc ひむかのハマグリ


海辺の浅瀬は水産動物のこども達のゆりかごです
by beachmollusc
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海辺の自然を取り戻そう
 自然の恵みを後世に残すためには、その生態と環境を深く、よく知ることが基本です。

 海岸の浅瀬、干潟や砂浜は資源生物のゆりかごです。
しかし、それにおかまいなしに埋立てや海岸構造物の建設、水質汚染も加わって、日本中の水辺、海辺の環境は撹乱され、破壊されてしまいました。その結果、ハマグリなど干潟の動植物の多くが絶滅危惧種となっています。

 このブログでは、主に砂浜環境の保全を念頭において、日本各地の山、川、海の姿を調べて見てまわったこと、
そして2006年5月に移住した日向市の海辺と里山の様子や生き物などを紹介します。

このブログにリンクを張ることはご自由にどうぞ。

    - 自己紹介 -

大学院博士課程修了後7年間の海外での研究と28年余り大学教員をしていました。

海の無脊椎動物(貝、ヒトデ、サンゴ、クラゲなど)が専門、自称の学位は Doctor of
Underwater Marine Biology
(DUMB:バカセ)

楽観的な悲観論者または悲観的な楽観論者:生態的に無理をしている人類の滅亡は近いだろうが、それも自然の摂理じゃないのかな

せっかちな慎重派:ゆっくり
見極めて急いで集中的に
お仕事します

好きなもの:日本蕎麦が一番、パスタ・スパゲッティ、うどんもよし、つまりメンクイです

嫌いなもの:人混み、投棄ゴミ、マスゴミ、脳衰官僚

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カテゴリ:評論( 62 )


評価書の怪

ウナギ資源増大対策事業、という題目の平成14年度に9,000万円あまりが執行された事業の評価書を改めて眺めてみたら、不思議なことがてんこもりである。
http://www.maff.go.jp/soshiki/kambou/kikaku/hyoka/14/shudan_sheet/14shudanh69.pdf
ウナギに関する事業であるから、滑ってつかみどころがないのは当然かもしれない。

政策目標を見ると「資源増大対策」ではなくて資源の減少(実際は衰退)に関する対策事業である。「ウナギの資源量、資源補給量等の把握と人工種苗生産技術の開発」を二本柱としていて、ウナギ資源の持続的な利用(水産物の安定的な供給)を達成するために、「主要養殖生産国の持続的利用枠組み構築」という国境を越えた極めて野心的な概念図を示している。この資源衰退問題の根源は国内にあることぐらいは本事業の調査前にわかっていただろうが、水産庁が主導して国際間で「枠組み」を作る、ということは日本を反面教師として海外に情報提供するという意味なのだろうか。

この事業の達成度は、406%とされている。何がそのすばらしい成果の分母と分子になっているのか示されていないが、これは水産庁の担当者が、自分たちの(書類を作り財務省から予算を獲得して委託先の研究センターに回す)努力を正当に評価したものであろう。406%ということは、想定していた予算目標の4倍が認められたのかな。それにしても、この6という端数は何だろう。

政策目標との関連、という項目には、目標値(目標年度)として平成18年度(つまり14年度から5カ年計画か?)に2,016千トン(つまり約200万トン、4桁目までの端数は何を意味する?)の指標名:関係漁業生産量(主な栽培漁業対象魚種、海面養殖業等)の維持及び増大、が示されている。それに対して実績値が1,995千トン(ほぼ200万トン)。これがこの資料の最大の謎である。

統計数値によると、平成16年度の日本全国のウナギの生産量は天然で約600トン、ウナギ養殖の生産量は日本全国合計で445の経営体が21,777トン。これらの数字から、2万トン余りがウナギの全年間生産量であるが、200万トンという上の実績値の数字は一体全体何を示しているのだろうか。また、何がどのように本事業のおかげで「増大」したのだろう。

2008年2月12日公表の漁業・養殖業生産統計年報 > 平成16年漁業・養殖業生産統計年報(政府統計の総合窓口 e-Stat http://www.e-stat.go.jp/ からダウンロードできる)

日本のすべての漁業(海面、内水面、養殖)による生産量は、年間約600万トン(その約2割が養殖)となっている。200万トンとはその三分の一に相当し、海面、内水面の養殖業の合計約120万トンよりもはるかに大きい。

この事業評価書の締めくくり、総括意見は[廃止(一部)及び有効性、効率性の改善]としてあり、<本事業のうち、ウナギ資源の調査は必要性が低下しており、有効性、効率性について改善が必要なことから、本調査を廃止することを前提に検討を行い、重点化を計るなどして事業の見直しが必要である。>

えーーーー、400%の達成率の事業の総括が資源調査の廃止ですか。確かに調査を継続しても、資源が減少を続けていることが浮き彫りになるだけで、目標達成の助けにはならない。

人工種苗生産はなんとか進んでいるので、これだけを継続させるというのが水産庁の立場のようである。資源を増やし、持続的に利用できるようにするためには、何がどうなって資源が衰退しているかを把握して、その「対策」を講じることが求められる。しかし、水産庁はこれについて完全にそっぽを向いているように思われる。

ウナギの資源がなぜ減少したのか、定性的には誰もが「知っている」ことであろうが、具体的な数量的な証拠を出して因果関係を推定できるように示した調査結果がでているようだ。

ウナギ減少ダムのせい 四万十川は影響軽微  2006年11月04日 高知新聞の記事。
http://www.kochinews.co.jp/0611/061104evening01.htm
<河川の流域面積当たりのダムの貯水量が、河川に加えられた環境改変の大きさの指標になるとみて、四万十川や利根川などについて漁獲量との関連を分析した。
 すると、貯水量が少ない四万十川や筑後川は漁獲量の減少率が低く、貯水量の大きい利根川や那珂川、江の川などは減少率が高いことが分かった。貯水量が中程度の肱川や球磨川は、減少率も中程度だった。>(部分引用)

霞ヶ浦、北浦再生事業に取り組んでいるNPOあさざ基金のサイトに「カムバックウナギシンポジウム」の講演要旨が掲載されている。その中に上の新聞記事で紹介された調査を行った研究者の発表が含まれている。
http://www.kasumigaura.net/asaza/index.html

写真は日向市内の塩見川でくつろぐカモ。
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by beachmollusc | 2008-02-21 09:08 | 評論

うなぎが絶滅する日(その2)

河川(そして汽水域、河川に上らない個体、海だけで暮らすものが発見されている)でニホンウナギが何年かけて成魚になって産卵場に向かうようになるか、という点を知りたくて情報を集めようとしてみたが、明快な数字が見つからない。

内水面重要種資源増大対策事業(ウナギ資源調査)というのが全国的に展開されてきた。(水産庁が日本水産資源保護協会に委託し、日本水産資源保護協会が各県へ再委託。平成15年度に水産庁と日本水産資源保護協会との委託事業が終了)

このように、資源そのものが危なくなってからしか調査をやらないのが日本の水産(行政)の特徴でもある。増大しないようにする対策と見えるから、「資源増大対策事業」という言葉はどこかが変ですね。国の官僚が予算獲得行事に臨むときに「アピール」するための用語にはこのようなヘンテコがよく見られる。

鹿児島でのウナギ資源調査報告がオンラインで見つかった。
http://www.agri.pref.kanagawa.jp/suisoken/naisui/news/2001/74_unagi.htm
それから引用:
<今後の課題
 本調査結果を踏まえた淡水域でのウナギの生態に関する今後の課題を列記すると、
・なぜ漁獲ウナギは大きく雌に偏っているのか?
・梁で漁獲されるウナギは産卵回遊なのか、季節的な移動なのか?
・産卵回遊に向かうウナギはいつ、どのようにして海へと向かうのか?
・稚ウナギはどこでどういう生活をしているのか?
・海水の影響のある河口域に生息するウナギは遡上するウナギと異なるのか?
等、未だウナギの生態については淡水生活期ですら殆ど解明されていないといっても過言ではなく、ニホンウナギという種の存続のため長期的、総合的な調査が必要であるものと思われる。>
だそうである。

資源を守り、持続的に利用するための情報に関して肝心なことは何もわかっていない、というのが現状なのか、と驚くばかり。ウナギの養殖関係の技術革新は目覚しかったと思われるが、資源調査のような、直接お金にならないことは後回しであったということであろう。

大分県でも資源調査が行われた:
http://www.mfs.pref.oita.jp/planning/paper/H15/H15jihou66.pdf

吉野川のある徳島県の調査では:
http://grwww004.pref.tokushima.jp/suisan/books/jiho/h11/h11-46.pdf

これらの報告を見ると、簡単な捕獲調査結果と環境パラメーターの数字を出しておしまい。調査予算もわずかで、日常業務のかたわら予算消化の、つまり「ついでの仕事」であろう。

国のプロジェクトというものの実態がこれである。

元締めの水産庁で総括している情報としては:
http://www.maff.go.jp/soshiki/kambou/kikaku/hyoka/14/shudan_sheet/14shudanh69.pdf
結局、天然ウナギの消滅の前に採卵して全生活史の段階を人工的に育てる完全養殖技術の開発が間に合うかどうかに賭けている、としか見えない。

上では大淀川の調査結果の一部が出ているが、宮崎県ではいかがなものかと調べてみた。県の水産試験場の百年史の試験研究課題一覧:
http://www.suisi.miyazaki.miyazaki.jp/pdf/02.pdf
* 昭和45年度、ウナギ種苗の安定的供給に関する試験
* 46年度、黒潮離接岸と宮崎県におけるシラスウナギ漁との関係
* 50年度、国産ウナギ越冬試験
* 55年度、塩酸オキシテトラサイクリンによるウナギ薬浴後の体内残留性
* 平成8年度、シラスウナギALC標識試験:アリザリンコンプレキソン(ALC)による標識、つまり生きている動物体の硬組織を染色する手法
以上が掲載されていた。

情報は古いが、「みやざきの自然」サイトで、宮崎県の河川の魚(5)という解説記事がある。
http://miyazaki.4zen.jp/011/15/index.html
ウナギ養殖が発展した陰で河川の天然ウナギの漁獲が激減していった様子がグラフで示されている。

ウナギの養殖では海から河川に上るシラスを捕獲して池で育てる。そのシラスの量が国内需要を満たさず、一時はヨーロッパウナギの稚魚を輸入して育てることも行われたが、結局それは日本国内では定着しなかった。しかし、中国ではヨーロッパウナギをシラスから育てる養殖が発展することになった。

シラスウナギの[池入れ」、つまり養殖池に使われた量の情報がネットでだされているのでそれをグラフ化してみた。(うなぎネットサイトhttp://www.unagi.jp/)

ヨーロッパウナギのシラスを使っているのは中国だけかどうかわからないが、とりあえずニホンウナギのシラスからの養殖を日本、韓国、台湾で競っているとして、中国は除いてグラフにしてある。中国が最大のウナギ養殖生産量を誇っているが、それがヨーロッパウナギ資源の存続を脅かしているようである。
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日本では国内での供給が減り、台湾などからの輸入で支えられてきた。しかし、台湾がシラスウナギの輸出禁止を打ち出してきたので、日本のウナギ養殖の種苗供給における混乱は避けられないだろう(密輸など、裏道があり、産地表示は滅茶苦茶となる)。
http://mainichi.jp/select/world/scene/news/20080204ddm007030143000c.html

資源保全管理のコストを負担しないで自然から収奪を続けてきたつけが取り立てられていると考えられる。
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by beachmollusc | 2008-02-20 11:00 | 評論

うなぎが絶滅する日

鰻を食べることは日本の重要な食文化の一つであるが、その根底がぐらつき始めているようだ。食品スーパーなどには鰻の蒲焼が山積みされているが、それが消える日がくるだろうか。

2000年代に入ってフィリピン海のニホンウナギの産卵場がピンポイントで解明されたが、そこに向かって産卵回遊する親ウナギが消えるという事態になることさえ懸念される。

ウナギは一生の最後に産卵して死ぬこと、産卵場所から海流に乗って流動してきた稚魚集団が限られた期間に限られた場所にまとまって接岸する生態から、その管理を誤ると資源が崩壊する危険が常に付きまとっている。そして、日本だけでなく東アジア全体のウナギの生息場所が水質汚染などで悪化を続け、さらに養殖のためのシラスウナギの乱獲が産卵親になる個体数を減少させている。日本の天然ウナギの漁獲がいまだ消えていないことがむしろ不思議なくらいな状況と思われる。下の図は日本の天然ウナギの年間漁獲量統計をグラフに示したものである。
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ニホンウナギの問題は後で詳しく論じるとして、日本人が(間接的に)大量に消費しているヨーロッパウナギ資源の動向はどうであろうか(ヨーロッパウナギのシラスが中国に運ばれて養殖されてから日本に来ている)。

オランダではヨーロッパウナギを国の絶滅危惧種のレッドリストに掲載しているが、全世界をカバーするIUCNのレッドリストには載っていない。http://www.iucnredlist.org/search/search-basic

http://home.planet.nl/~hwdenie/redlistfishes.pdf
オランダの淡水魚についてのRED LISTにはヨーロッパウナギの漁獲量の推移の例が出ている。1945-1995年、IJsselmeerでの漁獲量は年間4000トンからその1割程度まで落ち込んできているが、年変動を平準化した減少率は10年間に約4割とされている。そして、この傾向はヨーロッパ全域に及んでいるとされている。

北大西洋の国際水産研究機関、ICESサイトではヨーロッパウナギの漁獲量と加入(指標)の推移をグラフで示している。シラスウナギの加入調査は1920年代から続けられているが、その1980年代以後の急激な落ち込みがヨーロッパウナギ資源の危機を示していると思われる。
http://www.ices.dk/marineworld/photogallery/eel-trends-big.gif
1980年より前の水準に比べて、最近のシラスウナギの加入は1-5%の水準であり、回復傾向が見られない(年変動がはげしいのがシラスの加入の特徴であることはニホンウナギと同様)。
http://www.ices.dk/committe/acom/comwork/report/2007/oct/eel-eur.pdf
漁獲量も落ち込んでいるが、これは数十年前の加入に依存しているので加入量の激減状態がヨーロッパウナギの漁獲量の減少を加速するのは今後のことになるだろう。ヨーロッパでもウナギの養殖が増大中である。

http://www.natureserve.org/explorer/servlet/NatureServe?searchName=ANGUILLA+ROSTRATA
上のURLにアメリカウナギについて詳しい情報が集約されている。こちらは減少傾向にあるが、レッドリストについての検討対象にはなっていないらしい。アメリカウナギはヨーロッパウナギの漁獲量減少を受けてヨーロッパ向けの輸出が増大しつつある。

ウナギ全般について一般向けのよい本が出版されている。
"Consider the Eel"
by Richard Schweid (Univ. of North Carolina Pr., 2002)
日本語訳も出ているが、これは水産物としてのウナギをめぐるお話が中心であって、アメリカやヨーロッパのウナギ事情のルポが面白いが、日本の状況についての記述は皮相的である(ウナギとドジョウをまぜこぜにしたところもあった)。
(つづく)

<追記>
ヨーロッパウナギがワシントン条約の附属書に掲載され、国際間の取引が規制されるようになっていることを記しておくべきだったのを忘れていた。

話が古くなってきたので下に記した話題は省略していたが、水産資源を守る趣旨で内水面で広く行われている「義務放流」の矛盾を指摘しておく必要を感じたので追加する。

日本の川にヨーロッパのウナギがいる?その具体的なデータとウナギの「義務放流」についての漫談:岡 英夫、2001年6月(初出2001年2月)が(株)いらご研究所のサイトで紹介されている。
http://www.irago.co.jp/TEXTS/research_frame.html
http://www.irago.co.jp/documents/MANDAN3.HTM

神奈川県のウナギ漁業と放流: 
義務放流についてのデータが漁獲量データの経年変化と一緒に示されている。
http://www.agri.pref.kanagawa.jp/SUISOKEN/naisui/news/99/99unagi.htm
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by beachmollusc | 2008-02-19 10:21 | 評論

貝類の移植と外来種問題(特にシナハマグリについて)その5

分子集団遺伝学が発展し始めたのは1960年代に酵素多型の実態を具体的に調べる手法、いわゆるアロザイム分析の技術が開発されたのがきっかけとなった。その後、特定の酵素により切断されたDNA 断片を調べたりする方法が開発され、さらに、断片化されたDNAを増幅する技術(PCR法)が普及し、DNAの塩基配列内の変異を具体的に読み取ることが出来るようになった。

分子レベルで集団遺伝の解析が進められる以前は、個体変異についての認識が希薄であり、メンデル遺伝と適応度による自然選択を軸に考えるネオ・ダーウイン派の進化論が主流であった。その理論では、遺伝情報を共有する繁殖集団では個体レベルの変異は選択により均一化されるという考え方が支配的であった。しかし、実際には野生生物の集団で著しい個体変異、つまり遺伝子レベル・塩基配列の変異が分子レベルで見つかるようになった。

野生生物集団には集団を構成する個体間にきわめて大きな変異:多様性が見られること、それが地理的・空間的に変化し続ける自然界での進化の原動力となっていること、の認識はようやく広まりつつある。さらに、生物の細胞内にある遺伝情報としては、特定のたんぱく質をコードする遺伝子が働くだけでなく、生物体の発生(細胞分化、統合的な体構造を作り上げる過程)で順次遺伝子発現のためのスイッチを入れたり切ったりする仕組みがあることが最近数十年間の研究でわかってきている。要するに、生物とは地球の時間・空間のたゆまない環境変化の中で形成され、変化し続けてきている歴史的な存在であり、進化の産物である。

人間の手による生態遺伝的な撹乱を考える場合に、生態系が固定されたものと受け止め、その変化を嫌う意識が広がっていて、外来種が無条件に嫌われることにそれがリンクしているようでもある。しかし、人間による食料の生産と消費活動の中では外来種を賢く利用すること、さらに遺伝的な選抜、すなわち交配・育種技術をもとに資源生物の生産を効果的に発展させることも重要である。

以上の一般論を踏まえた上で、外来種のシナハマグリの移入と定着の問題で提起された、在来ハマグリ集団の遺伝的な撹乱とはいったい何であるのか、ということを客観的に論じてみたい。シナハマグリとハマグリは地球の歴史で見ると、比較的新しい時代に共通の祖先から分かれて分化したもので遺伝的にきわめて近縁であり、海流での連結が弱くて交雑の機会が乏しい状態に隔離されてきたのでお互いに独自性を保ってきたと考えられる。

シナハマグリもハマグリもそれぞれの地理分布の範囲内では地域的な分化を遂げているようである。日本国内のハマグリ集団を青森から鹿児島まで比較した結果(未発表)では、酵素を指標にした分子レベルと殻の形態と色彩・模様の発現頻度の地域分化が起こっていることは明白である。ただし、殻の形態が遺伝形質であるかどうかは明らかではない。シナハマグリについても同様な地域分化が起こっていることは想像されるが、まだ具体的な情報は乏しい。

シナハマグリの養殖:輸入開発業者から得た情報では、中国の国内ではすでに大規模な地域間の移植が進められてきたようである。一方、日本国内で各地に残っているハマグリ集団は、ボトルネック状態でかろうじて存続し、その衰退をきっかけにして、地域集団間の遠距離からの移植放流が盛んに行われてきたので、すでに遺伝的な撹乱を相当受けているようである。国内の同種(といっても遺伝的には微妙に分化した)集団に加えて、国外からさらに分化の進んだ異種のシナハマグリが放流されてきているので、何がどうなっているのかを把握することが極めて難しい。

シナハマグリがハマグリ集団の生息する場所に放流された場合、交雑による遺伝的な浸透を論じる前の話として、精子と卵子の不適合で交雑・発生できない「遠縁交配による不稔性」も一応心配しておく必要があるだろう。これら二種の交配実験結果が情報として得られていない現状では何もいえないが、雑種となってから次の世代を作れない可能性があるかもしれない。もしそのようなことが起これば、在来のハマグリ集団を衰えさせることにつながるかもしれない。その反面、ごく近縁な種の交雑で、雑種に繁殖能力が備わっている場合には雑種強勢という現象が見られるかもしれない。結局、部分的な遺伝子の混ざりこみがどのようなプラスあるいはマイナスの結果を招くのかよくわからないので、移植放流を現状のように無秩序に進めることは望ましくない。すなわち、理論的な懸念だけを根拠として、シナハマグリを遺伝子撹乱の悪役であると決め付けるのは早計であって、ハマグリとあわせてそれぞれの遺伝的特性と交雑性を実験的に確かめてからその情報を踏まえて議論すべきであろう。

写真は韓国産のシナハマグリ(殻長10センチ余り、現地で A. Yamakawa 購入)
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by beachmollusc | 2008-02-17 12:20 | 評論

貝類の移植と外来種問題(特にシナハマグリについて)その4

外来種による「遺伝的な撹乱」の本題に入る前に、移植放流に関するその他の問題点を整理しておきたい。外来生物法が施行されて、それ以前の無秩序な状態が一応解消されたが、反動で帰化・外来生物が外来種であることだけで「悪者」すなわち「不都合な存在」とみなされる傾向が強く出てきていることについても私見を述べておきたい。

外来種が生態的、あるいは経済的な問題を引き起こし、駆除対象となっているものは少なくない。しかし、多数の外来・帰化生物が日本国内で広く定着し、原風景の一部になっていることも事実である。在来種であっても人の経済活動や公衆衛生上で不都合な存在はいくらでもあり、多くは排除対象ともなっている。

そもそも外来生物法とは「特定外来種」という概念で個々の種について「不都合な存在」と公的に認定されれば、それぞれについて行政的に管理対象とするという精神である。すでに利用が定着していても、生態的な撹乱(特に在来種に対する影響)が認められるような外来生物では、資源利用と生態系保全とが緊張関係におかれ、水産生物では衝突が起こりやすくなっている。

多くの野生生物が環境あるいは生態的に「不都合な存在」となったのは、ほとんどの場合、人間側で自ら招いてきたものである。生態的な情報不足と誤った認識による導入(天敵の導入が問題を悪化させたケースなど)、ペットや養殖対象動物の飼育放棄による野生化などである。貝類では通称ジャンボタニシ、標準名スクミリンゴガイという淡水産の巻貝が養殖対象として導入されたが、逸散したあげくに農業ペストとなった。
http://www.knaes.affrc.go.jp/kiban/g_seitai/hmpgsctn.html
しかし、この貝は九州北部を中心に「稲守貝(ジャンボタニシ)稲作」として水田雑草を食べさせて除草剤の使用を抑える手段として利用されるようになった。
http://hb7.seikyou.ne.jp/home/N-une/2-d-4-kannkyouinaskaunosusume.htm

日本では水産関係で国境での検疫という概念が存在していなかったのが実態である。宮城県などで行われたアサリの放流では、天敵のサキグロタマツメタという巻貝が一緒にもたらされて大発生し、アサリの激しい食害が広がってしまった例は記憶に新しい。

貝類の病原生物が、外来集団の移植で一緒に運ばれる可能性は高い。貝類の病気についての知見が乏しいため、実際に感染症が蔓延していたとしても、その実態がわからないままに終わることにもなりかねない。近年、アサリ資源が全国的に急激に減少したが、それには原虫(アメリカで大きな問題となったパーキンサス症)の影響があったかもしれない。

二枚貝類の幼生を孵化場で飼育すると、ウイルス性の疫病で幼生が一斉に死滅することがある。カキの養殖などでは種苗生産管理上、これが大きな問題となっている。コイのヘルペス症やクルマエビのウイルス性疾病など、表面化している問題もある。とにかく、水産動物集団の移動は、国内、国外を問わず検疫の上で実行できるとする基本ルールの確立が求められる。

写真は南郷町の水中観光船、マリンビューワーなんごうが港に戻ってきたところ。
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by beachmollusc | 2008-02-16 18:12 | 評論

貝類の移植と外来種問題(特にシナハマグリについて)その3

外来種あるいは移入種としてのシナハマグリをどのように考えるべきか、つまり水産資源として一部地域ではすでに日本国内に定着しつつあるようにも思われることを追認してよいかどうか、さらに追加的な移植を容認できるかどうかを考えて見たい。

外来種の中には、意図的、非意図的な導入を問わず、経済・産業上有害生物となったもの、在来種を圧迫して生態的な撹乱要因となったものがあって、過去の無秩序な移入の結果で多くの不都合な事例が積み重なっている。それは新しい生息場所で天敵から開放されたり、空いたニッチに入り込んで大発生するケースや農作物などに甚大な被害をおよぼすことがあったからである。その一方で外来種(多くは栽培種)として導入された資源生物が生産を支えてきたケースが多いし、それなしでの農業は成立しないだろう。

水産資源生物は、多くの場合、野生状態で成育するものを収穫するという、陸上と異なる生産様式をとる場合が多い。そのため、野生生物として保護管理することと資源生物として利用することとの間で軋轢が起こることもあって、社会的な調整が必要になる。シナハマグリのケースでは、在来種であるハマグリ資源に対する遺伝的な撹乱の影響が問題点とされている。

環境省のHPでの説明では:
外来生物法(http://www.env.go.jp/nature/intro/index.html)

要注意外来生物リスト(被害に係る一定の知見はあり、引き続き特定外来生物等への指定の適否について検討する外来生物)に以下のように掲載されている。
シナハマグリ Meretrix petechialis
生息域: 海産
導入経路・導入手段: 非意図的、食用・蓄養
文献等で指摘されている影響の内容: 生態系(遺伝的攪乱)
摘要: 国内での被害の知見は明確でないが、蓄養・放流時には拡散防止の注意が必要。
日本の侵略的外来種ワースト100(IUCN)。

そこで、この「遺伝的撹乱」とは何か、それが「悪」とされているのはなぜかを考察してみたい。
(つづく)

写真は自宅附近で満開の梅の紅白の花。
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by beachmollusc | 2008-02-10 09:52 | 評論

貝類の移植と外来種問題(特にシナハマグリについて)その2

日本産ハマグリ類(すなわちハマグリとチョウセンハマグリ)の漁獲統計を見ると:
http://www4.ocn.ne.jp/~meretrix/mediac/400_0/media/JapanCatch.jpg
年間漁獲量は1963年の3万トンを超えたピークの後に急激に落ち込み、
1974年に1万トン台があったが、その以降は5000トン以下になっている。
2000年以降では数千トンで低迷したまま推移しているが、その大部分を占めている
のは鹿島灘産のチョウセンハマグリであって、それを除いた、つまりハマグリだけの
漁獲量は数百トン程度になっているだろう。

オンラインで見ることが出来る、シナハマグリの各国からの輸出量、すなわち日本の
輸入量の情報は限られていて、細かいところはわからない。

最大の生産国である中国の統計ではハマグリ類(シナハマグリがほとんどであろう)
のみの数字を取り出してみることが出来なかったが、貝類全体の漁獲と養殖生産量の
合計を見ると、1980年代以降に急速に増大してきたことが明らかである。
http://fishbase.sinica.edu.tw/report/fao/graphFAOCatch.cfm?c_code=156&scientific=Mollusca&english=
2000年度の中国の軟体動物(養殖を含む)の漁獲量は200万トンに迫っている。
その主な種類ごとの内訳は:
http://pds.exblog.jp/pds/1/200703/11/49/e0094349_191397.jpg

日本が海外から輸入したハマグリ類(すべての種について活魚・冷凍その他すべてを合計)の重量は内閣府が出している情報で1989年以降について見ることが出来た。
http://www.tdb.maff.go.jp/toukei/a02smenu3?TokID=K001&TokKbn=C&TokID1=K001C-006&TokID2=K001C-006-022&TokKbnName=#TOP
この情報から中国、韓国、北朝鮮について抽出してグラフにしたものが下の図である。
e0094349_1175874.jpg

ここで示されているデータの貝種はほとんどがシナハマグリであろう。1995、1996年
には年間3万トン以上あったが、その後に減少に転じて最近では年間輸入量は2万トン
を割り込んでいる。国際政治的な理由から北朝鮮からの輸入が減っているのは顕著で
あるが、それを補うだけの中国あるいは韓国からの輸入量増加は見られない。おそらく
両国とも近年には沿岸の生産環境の悪化が進んでいて増産出来ないか、あるいは中国
国内の消費需要が伸びているのだろうか。
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by beachmollusc | 2008-02-07 11:15 | 評論

貝類の移植と外来種問題(特にシナハマグリについて)

有明海原産のシカメガキという貝が、米国のoyster barではKumamoto oysterと呼ばれ、一番人気になっているそうである。これは西海岸、特にワシントン州などで盛んに養殖されているようである。たとえば、
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?file=/chronicle/archive/2002/04/28/CM240350.DTL

1928年に雨宮育作はシカメガキをマガキとは異なる種として(新種)記載したが、最近までこのカキは貝類の分類専門家の間では独立した種とは認められずにいた。また、成長が遅いことなどから、国内では養殖対象とはされてこなかった。

アメリカで産業的に重要となり、その遺伝資源としての重要性が認識されてから本種の分類が再検討された。その結果、マガキとは成育環境が異なっていて住み分けていること、そしてシカメガキの精子はマガキの卵とは受精しないこと(その逆の組み合わせは交雑する)、さらに分子遺伝的な差異が認められて、1994年に独立種として認識されるようになった。
M. A. Banks, D. J. McGoldrick, W. Borgeson and D. Hedgecock (1994)
Gametic incompatibility and genetic divergence of Pacific and Kumamoto oysters, Crassostrea gigas and C. sikamea. Marine Biology Volume 121, 127-135.

シカメガキの種としての独立性はマガキとの部分交雑が起こるため、その養殖では系統の維持について注意が必要になっている。アメリカの養殖ストックで起きた遺伝子の劣化を回復させるために原産地、有明海のストックの調査がアメリカの研究チームによって10年余り前に行われた。それは諫早湾の締め切り堤防が完成していた頃で、有明海では多くのの貝類が激減、壊滅状態に陥っていた。現地調査を実施したアメリカ人研究者の眼に映った当時の有明海の姿は悲惨だったことと想像できる。しかし、絶滅が心配されていたシカメガキはかろうじて残っていた。

国境を越えて意図的に移植され、産業的に重要な資源となった例にはシカメガキ、マガキのほかにアサリもある。これはハワイ、ワシントン州、そしてヨーロッパ(フランス)まで広げられた。その一方で、非意図的な移動も多く起こっていて、アジア原産のシジミの仲間が米国の河川水系で問題となったり、中央アジア原産のゼブラ貝が五大湖にもたらされ米国内で急速に広がって大問題となった例もある。なお、日本では東京湾が水産外来種の見本市状態となっている。
http://members12.tsukaeru.net/aono/

人間が意図的、あるいは非意図的に広範囲に移動させてきている水産生物は資源として受け入れられる反面、在来種を圧迫する外来種として排斥の対象ともなっている。この点について日本国内で現在進行形のシナハマグリの問題を考えて見たい。 (つづく)
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by beachmollusc | 2008-02-05 09:56 | 評論

野生鳥獣の捕獲数の推移

http://www.sanson.or.jp/tyouzyu/data/yuugaihokaku-list.html
山村地域住民と野生鳥獣との共生、というサイトで参考資料を見つけました。
そのデータからグラフを作ったのが下の二つです(環境省、全国の集計データ)。
猿は狩猟の対象になっていませんが、有害動物駆除事業として認可され、税金で
捕獲、捕殺されています。捕獲された猿は実験動物として殺されているようです。
http://www.coara.or.jp/~wadasho/yaseidoubuths.htm
e0094349_10424897.jpg
e0094349_10425947.jpg

猪が増え続けているのが良くわかります。
ここで気になることは、ノウサギの捕殺数が減少を続けていることです。
たしかに、日向市に来てから野外でウサギを見たことがほとんどありません。
米の山公園の山頂で飼いウサギが逃げたものらしきのを1回見ただけです。
いったい何が起こっているのでしょう。

タヌキも減少しているように見える。
その詳しいサイトを発見: http://tanuki-c.hp.infoseek.co.jp/index.html
鳥獣保護法の実態について、野生動物研究者のコメントがあった。和英両方で
書かれている。ここでも、毎度おなじみになっている行政に問題あり。
これは行政にぜひ読ませたい:「狩猟とワイルドライフ・マネジメント」
http://tanuki-c.hp.infoseek.co.jp/fieldnoteJ.html

ハンターが高齢化して視力も落ちているのでしょう、千葉県で猿と間違えられた女性が
撃ち殺されたという事件があったようです。香川でも猿と間違えてハンター仲間を射殺。

宮崎県でも最近ハンターの同士討ちがあった。
http://www.za.ztv.ne.jp/up36uvks/h17jikojirei.html
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by beachmollusc | 2008-01-09 10:46 | 評論

林道談合(緑資源機構)

独立行政法人緑資源機構http://www.green.go.jp/annai/index.htmlによる
官製談合がニュースとなっている。今の段階では事業の設計などの枝葉部分での
談合事件であるが、本体工事で談合がされていないはずがないと思われるので、
いずれ、「なんとか還元水」の親分のトコまで広がって行くのではないかと思われる。
典型的な天下りネットワークを林野庁が構築して、税金をたっぷりつぎ込み、奥山の
国有林を「開発」する仕組みが出来ていた、ということが明るみに出た。

林道ネットワークの軸となる幹線林道を整備しています -緑資源幹線林道事業-
という出だしで、総延長が2000キロ余りの事業、九州でも宮崎、大分、熊本の九州山地を
ズタズタにする大規模な「公共工事」が機構のHPで紹介されている。

そのようなすごい道路を建設する理由が説明されている文章を見て吹き出しそうになった。

<以下に引用>

 複数県にまたがるような大きなまとまりを持った森林を、健全に手入れしていくためには、森林の隅々に到達するための林道のネットワークが必要です。
 植物の葉の隅々に栄養を届ける葉脈や、体内に血液を循環させるための血管と同じです。
 血管にも大動脈-動脈-毛細血管などの違いがあるように、林道ネットワークにも幹線林道-一般林道-作業道などがあり、それぞれの役割を果たしています。

<ここまで引用>

この説明で「なるほど、ごもっともです」と納得する人がいると思って作文したのだろうか。
大動脈以下の仕組みというのは血液が心臓から末端まで流れるためのものであるが、
基幹林道に流れるのは血税だけですね。しかも、静脈で還流させるので二度美味しい。
さすがは、「なんとか還元水」の説明でがんばってしまう親分の子分たちです。

森林の隅々まで到達しなければ手入れが出来ないようになった理由は自然林を無理やり
人工林にしてしまったからでしょう。 その人工林の手入れが民間でなされていない理由は
山林を伐採しても林業として採算が取れないからであるが、官業では税金をぶち込めば
採算コストの大きな部分(インフラ)を度外視できるし、林道建設などの土建事業関係者に
美味しい事業を創出できて、天下り先は確保できるし、献金も出てくるし、関係者がみんな
ハッピーというすばらしい計画です。
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by beachmollusc | 2007-04-04 14:48 | 評論