beachmollusc ひむかのハマグリ


海辺の浅瀬は水産動物のこども達のゆりかごです
by beachmollusc
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海辺の自然を取り戻そう
 自然の恵みを後世に残すためには、その生態と環境を深く、よく知ることが基本です。

 海岸の浅瀬、干潟や砂浜は資源生物のゆりかごです。
しかし、それにおかまいなしに埋立てや海岸構造物の建設、水質汚染も加わって、日本中の水辺、海辺の環境は撹乱され、破壊されてしまいました。その結果、ハマグリなど干潟の動植物の多くが絶滅危惧種となっています。

 このブログでは、主に砂浜環境の保全を念頭において、日本各地の山、川、海の姿を調べて見てまわったこと、
そして2006年5月に移住した日向市の海辺と里山の様子や生き物などを紹介します。

このブログにリンクを張ることはご自由にどうぞ。

    - 自己紹介 -

大学院博士課程修了後7年間の海外での研究と28年余り大学教員をしていました。

海の無脊椎動物(貝、ヒトデ、サンゴ、クラゲなど)が専門、自称の学位は Doctor of
Underwater Marine Biology
(DUMB:バカセ)

楽観的な悲観論者または悲観的な楽観論者:生態的に無理をしている人類の滅亡は近いだろうが、それも自然の摂理じゃないのかな

せっかちな慎重派:ゆっくり
見極めて急いで集中的に
お仕事します

好きなもの:日本蕎麦が一番、パスタ・スパゲッティ、うどんもよし、つまりメンクイです

嫌いなもの:人混み、投棄ゴミ、マスゴミ、脳衰官僚

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<   2011年 08月 ( 27 )   > この月の画像一覧


カネツケシジミの話

出の山を訪問して藤原次男さんに案内していただき、現地の淡水シジミのサンプルをいただいてから、過去の分類記載文献を改めて調べてみました。

出の山シジミは、貝殻の形態と色彩の特徴から、いわゆる「外来種」として知られるタイワンシジミの「カネツケシジミ型」に同定されるので、そもそもカネツケシジミとは何者だろうかと気になったからです。

日本産のマシジミとヤマトシジミを新種として1864年に記載したT, Primeがその3年後に台湾産のカネツケシジミを新種としてCorbicula insularisという学名で記載しました。

記載された本文と図を下に示します。模式標本の殻の内面は薄い紫色としてあります。

日本で見つかっている「?カネツケシジミ」は殻の内面が白色(色なし)ですから、原記載と合いません。

Prime, T. (1867), XXVII.—Notes on Species of the Family Corbiculadæ, with Figures.
Annals of The Lyceum of Natural History of New York, 8: 213–237.
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同じBiodiversity Heritage Libraryサイトで別の著者Morelet, Arthur, (1858)のモノグラフに
C. insularisが図入りで記載されていました。

産地はタイです。殻の内面の色は薄い紫色で、台湾産と同じです。

Series conchyliologiques, comprenant l'enumération de mollusques,
terrestres et fluviatiles recueillis pendant le cours de différents voyages,
ainsi que la description de plusieurs espèces nouvelles.
http://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/11458
e0094349_16445366.jpg
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e0094349_16451118.jpg

カネツケシジミ、学名C. productaというラベルが付いている平瀬介類館の台湾産標本が京都大学総合博物館収蔵の自然史標本としてオンラインで展示されています。
e0094349_1657415.jpg

その画像を真ん中にして左に台湾産タイワンシジミ(C. fluminea)と右に日本(三河)産のマシジミの画像を並べて見ました。スケールで見ると平瀬の「カネツケシジミ: C. producta」はかなり小さい個体です。これは大きくなると色が変化するでしょう。
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平瀬の貝類図譜のタイワンシジミはマシジミとほぼ同じように見えますので、Corbicula productaをタイワンシジミ(C. fluminea)として、上のタイワンシジミをマシジミとすればすっきりするかもしれません。

貝殻の色彩は成長過程で変化し、生育環境でも変化するので、分類の指標には(基本的に)使えません。

実はC. productaというのはvon Martensが1905年に新種記載したもので、模式産地は朝鮮半島です。下の原記載論文はまだ入手できていません。

Martens, E. von. 1905. Koreanische Susswasser Mollusken.
Zoologischen Jahrbuchen, Supplement 8:23 70.
Corbicula producta sp. nov. is described (p. 66) and figured (pl. 2, fig. 8) from "Keumgang bei Kongju, Provinz Chhunghhongdo.

Kongjuという地名は韓国の内陸部にあるようです。
http://www.maplandia.com/korea-south/taejon/kongju/

韓国の淡水シジミ類について貝類図鑑などを調べてみましたが、現在はinsularisとproductaの両種ともに認識されておらず、タイワンシジミとマシジミの2種が認められています。汽水域にはヤマトシジミとその他に数種が認められています。

下に新原色韓国貝類図鑑(2001年)からシジミ類の部分をコピーしました。
e0094349_16493092.jpg

最下段の右側(上下)が韓国のタイワンシジミ(?カネツケシジミ型)で、同じく中央の上下が韓国のマシジミです。(最上段は韓国のヤマトシジミ。)

以上のように、貝殻の見かけでの(鑑別)分類はこれまで混乱が続いていて、さらに分子集団遺伝の情報が出てきてから、さらに混迷状態です。

マシジミが日本の固有種であるかと言うと、少なくとも韓国に分布していることから否定されます(韓国で行われた分子遺伝解析でそれが解明されています)。

中国本土産の淡水シジミ類の分類については情報が乏しいので良くわかりませんが、東アジアに広く分布しているCorbicula flumineaに対し、タイワンシジミと言う「和名」を与えてしまったことが混乱を招いているようです。

地理的に広く分布する生物に特定の地名や地域名をつけると誤解を招きやすく、時には困ったことになるでしょう。同じ理由で、ハマグリ類の分類がメチャクチャになっています。
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by beachmollusc | 2011-08-30 16:50 | シジミの仲間 Corbicula

小倉ヶ浜で高潮

小倉ヶ浜の朝の散歩に出る途中、塩見川沿いの国道327号線から川の水位を見ていたら、今朝は普段と比べて高く、カワヨシの群落が半分水没状態でした(朝6時)。塩見川では名前の通り、海の干満の潮汐を見ることができます。

国土交通省が洒落たことをやっていて、防災情報として全国の河川の水位観測データがオンラインで公開:毎時更新されています。下は今朝の8時時点のグラフです。(県にもHPがありますが、数値を出しているだけ)

テレメータ水位 縁開橋(えんかいばし)
http://www.river.go.jp/nrpc0305gDisp.do?mode=&officeCode=11521&obsrvtnPointCode=65&timeAxis=60
e0094349_962977.png

今朝6時の1.82mは、水防団待機水位:2.10mまでわずか28センチでした(赤の破線、避難判断にはプラス1m)。

小倉ヶ浜の中央部、赤岩川の河口に出ました。GIビーチでは後浜(海水が届かない部分)が満潮で消えて歩けないと判断しました。
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コンクリート階段のすぐ前まで満潮の時の大波(台風11と12号のうねりが来ています)が届いていました。

階段下のグンバイヒルガオの部分は砂丘化が進んでいて、海水をかぶっていません。
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花が数輪咲いています。
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階段の上に頑張って咲いている株もありました。
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コンクリートがなければ、砂丘のスロープに色々な植物の群落ができているはずです。海岸景観を美しく見せる海浜植物を粗末にして、有害かつ無益な構造物を造った痴呆行政の「責任者」は誰でしょう。
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by beachmollusc | 2011-08-29 09:27 | 海岸

出の山の淡水シジミ

下調べのお勉強が一段落したので、問題の出の山の淡水シジミの正体を確かめるために小林市に出かけました。拘束道路の無料化が終わっていたので、たっぷり料金を取られました(世界一高いのではないの?)。

日曜日で、出の山の水族館に客がわずかに入っていました。ホタル祭りの2年連続の中止と近くの火山のせいで来客数が減っているようです。

アカメは小さいのが1匹だけとなっていました。塩見川から拉致されてきたものでしょう。

藤原次男さんから大歓迎を受け、普段は入れない水路のシジミの様子を見せてもらいました。

大きいのは殻長が35ミリくらいで、表面の色は緑がかった黄色、そして小さい個体は黄色です。
表面の層がはげて、中の層が露出した部分にピンクと紫色が見えました。大多数がピンクです。
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藤原さんと一緒に案内してくださった「お守り役」の理事長さんによると、20年くらい前に行われた農地の構造改革事業の後、それまで紫だったのがピンクに変化したそうです。

殻の内側は白いので、いわゆる「カネツケシジミ」、つまり、外来のタイワンシジミの型の一つになります。昔から全く変化していないのであれば、出の山にはもともと「外来種」が在来していたことになりますが、色が変わったという話が気にかかります。約20年前に外来種のコモチカワツボの移入が確認されていることもひっかかる材料です。

出の山シジミが外来か在来かの真相究明の第一歩が始まったばかりですから、答が出るのはまだ先です。

水路で稚貝がいるかどうかチェックしたら、数が極めて少なく、異状を感じました。ひょっとすると、ここのゲンジボタルが減ったのは幼虫の主食であるシジミの稚貝が減ったからではないか、と想像しました。

実験観察用に大小50個体ほどいただいて、戻って綺麗な水の中に入れたら小さい白いツブツブを盛んに放出しました。すわ一大事、産卵しているのかと思って顕微鏡で確認したら、なんとトロコフォラ幼生でした。
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卵膜の中でグルグル回っている、トロコフォラになる発生途中の胚もありました。

採集と運搬のストレスで、親の体内(鰓の一部が育房になっている)で保育中の胚とトロコフォラ幼生が放出されました。バラバラに出たものと粘液に包まれて出た二通りがありました。 

体外に放出された幼生の発生が進んでベリジャー(貝殻を形成)になるかどうか、観察を続けます。アメリカに移入したタイワンシジミの場合、保育中のトロコフォラとベリジャーに親から栄養分が渡されているらしいといった観察結果があります。つまり、保育されている幼生は水中の餌を食べていません。

汽水のヤマトシジミは卵から孵化した幼生が餌を食べて成長します。一方、淡水の流水環境では幼生を水中に出すと流されてしまい、不都合なことになるらしく、浮遊状態の幼生はできません。

<追記> 8月30日

トロコフォラの段階で保育状態から放出された幼生がD-型の初期稚貝(底生生活)に進んでいました。
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斧足を盛んに伸ばして歩いています。殻が透明で、内部の鰓が動いている様子、また斧足の付け根にある平衡胞(体の姿勢を感知する器官)がはっきり見えました。

<追記> 9月12日

産卵後2週間を過ぎた稚貝は殻頂がわずかに膨らんだUmbo期になっています。
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by beachmollusc | 2011-08-28 20:45 | シジミの仲間 Corbicula

宮城県のマシジミなど淡水生物の保全

宮城県北部の栗原市内の農業用水路の上流部にある土の水路をコンクリート(3面)水路に改修した後の生物の生息状況を調べた報告書がオンライン公開されていました。

平成22年度土地改良事業実施地区二枚貝等生息調査報告書 平成22年12月8日
宮城県 北部地方振興事務所栗原地域事務所 農業農村整備部
http://www.pref.miyagi.jp/nh-khsgsin/nouson/06-kikaku/09-H22nimaigai.pdf

マシジミに関する部分を見たら、とても面白い情報がありましたので、下に引用します。

1. 調査目的
栗原管内の土地改良事業において、現況が土水路の水路を、3面張りコンクリート水路(以下コンクリート水路と表記する)へ改修した。これは洪水時に堤防を越流し、周辺の田畑に被害を及ぼすためである。

施工を行った水路区間の現況土水路では、二枚貝が多数生息していた。そのため、二枚貝が生息できるよう、コンクリート水路の底に土砂が堆積する構造として設計し、施工を行った。

施工してから相当期間が経過し、コンクリート水路の底に土砂が堆積して、目視でも水路底に二枚貝が観察できるようになった。したがって今回、コンクリート水路区間の3箇所と、その路線の土水路区間の1箇所について、水路底に生息する二枚貝の生息状況を調査し、二枚貝の回復状況、もしくはコンクリート水路施工による影響について考察するものである。

2. 調査日時 平成22年11月8日 9:30~11:10

<略>

(6). 淡水シジミの増加について
今回調査では二枚貝(ドブガイ・イシガイ)よりも淡水シジミ(マシジミ)の数が圧倒的に多かった。考察(5)で、述べたように、工事施工前に二枚貝を採取しているが、その時、淡水シジミはほとんど採取されなかった。また、その際上流部土水路も調査しているが、その時にも、淡水シジミはほとんど採取されなかった。そのため、工事実施時期と比べ、今回シジミが大幅に増殖していると考えられる。

水路近傍に住む地元の方々に聞き取りを行うと、30 年程昔には、シジミが大量に捕れたそうであるが、近年はほとんど見ることがなくなったそうである。しかし調査のとおり、最近また数が増えている。

シジミが増えた原因は不明であるが、水質と水量の変化が影響しているものと推定する。

<略>

(9). 二枚貝の見地から考察した水路構造

二枚貝や魚類等の生息を最優先とした水路構造を考慮した場合、土水路が適している。用水の供給および排水機能の確保、災害の防止、地元住民による維持管理の軽減等の事情を考慮すると、水路全線を土水路で整備するのは困難な場合が多い。

二枚貝の生活史を考慮すると、二枚貝の幼生は魚のヒレに寄生する生活史を持っている。二枚貝の繁殖には、二枚貝の生息する場所に寄生先の魚が好んで生息できる環境が不可欠であり、また、魚類はコンクリート水路の単調な水路構造の区間よりも、土水路やブロックマットなど、変化に富んだ区間を好む。

したがって、安全側に考えると、土水路もしくはそれに類する二枚貝の繁殖に適した区間(寄生先の魚も好む区間)を上流部に何箇所か設けておき、かつ、コンクリート水路に土砂が堆積する構造とすれば、水路全体での二枚貝の永続的な生息が可能ではないかと推測する。

....................................................................................
細かい情報は本文とデータを見ればわかります。

以上のように、地元の環境保護団体からの要望を受けて、農業用水路の改修で淡水生物の生態系保全を考慮した工事を行い、その結果を調べたことは賞賛に値します。同じ宮の字から始まる県で、ひたすらコンクリートで固めるだけの痴呆行政と比べると、うらやましくなります。
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by beachmollusc | 2011-08-27 20:09 | シジミの仲間 Corbicula

オクラシジミ、またはナリヒラシジミ

日本在来のマシジミとして、タイワンシジミと識別できる「特徴」となるかどうか、検討課題が一つあります。それは貝殻の大きさです。殻の長径が5センチを超える特大の淡水産シジミが日本各地にいるようです。

Pilsbryが日本から送られてきたシジミ類を調べ、特に大型のものをCorbicula orthodontaと名づけ、新種として1907年に記載しました。模式産地は尾張です。

Pilsbry, H. A. 1907. On Japanese species of Corbicula.
Annotationes Zoologicae Japonensis (Tokyo) 6:153-160.

Corbicula orthodonta sp. nov. is described (pp. 156, 157) and figured (Pl. 7, figs. 1, 2) from Owari, Japan.

上の文献がまだ入手できていないので模式標本についての記述と画像を見ていません。

このシジミに関して大山桂がエッセイを書いていて、鳥羽水族館サイトで紹介されています。

http://www.aquarium.co.jp/shell/essay/narihira.html

エッセイ Essay

ナリヒラシジミ  大山 桂

 明治から大正に掛けての平瀬与一郎・岩川友太郎両先生の時代に尾張産の巨大なマシジミをCorbicula orthodonta Pilsbry,1907、の名で呼ばれ、和名はナリヒラシジミともオグラシジミとも言った。後(黒田、1938)マシジミCorbicula leana Prime,1864、の一つの型と認められるに至った。ナリヒラシジミとは在原業平が京都で問題を起こして東国に逃げたとき、今の愛知県でかきつばたの花を見て57577の頭に、かきつばたを折り込んで、から衣 きつつなれにし つましあれば はるばる来つる たびをぞしのぶの歌を作って感慨に耽った故事から、業平(なりひら)を連想して命名したものと思われる。
 マシジミはハマグリ形ないし楕円形になるが、側歯が長くて大成しハマグリ形になる型は一見楕円形になる貝と別の物に見える。この型をナリヒラシジミと言って昔は区別した。戦前には東京都内(常磐線金町駅近くの水郷)でも30ミリくらいのは採れた。
 今年(*)の3月11日付けの朝日新聞の東海総合版に豊橋市嵩山町の農業用水のため池に最大56.6ミリもある大きなシジミが小さいのに混じって発見されたのを読んだ。ナリヒラシジミ型の巨大なマシジミは、一般に大きくならないうちに採ってしまうから、近年ではほとんど姿を消したもので、たまたま採取されずしかも栄養が良かったため大成したものと思われる。ナリヒラシジミ型のマシジミにしても、56.6ミリは記録に残る大きさである。

(*)94年の事

..............................................
<追記>

和名をつけた岩川と黒田の記述では「オクラシジミ」となっていて「オグラシジミ」ではない。大山が誤記したか、印刷のミスであろう。表題を訂正(9月4日)
..............................................
上のエッセイにある豊橋市は原記載標本の産地、尾張名古屋に近い。

群馬県自然史博物館では「オクラシジミ」として県内産の標本写真をオンラインで公開しています。

http://www.gmnh.pref.gunma.jp/musetheque/auth/get-media?data_no=711
1985年に採集された標本ですが、大きさのスケールがありません。

下の標本はマシジミとして1982年に登録されたもので、3センチ未満です。同じ大きさで色が異なる貝が並んでいます。
http://www.gmnh.pref.gunma.jp/musetheque/col/detail.do?hdicId=180&searchType=2&listType=2&startNo=261&dataId=21121

広島県の山中の溜池から見つかった大きな淡水シジミを「謎のシジミ」として紹介しているブログ{紆余曲折}があります。

<謎のシジミ試食リポート>
http://blogs.yahoo.co.jp/fdsa233/12218473.html
<続 シジミの謎 >
http://blogs.yahoo.co.jp/fdsa233/12161780.html
<蜆の謎>
http://blogs.yahoo.co.jp/fdsa233/12072926.html

(ブログ内の写真の説明を引用)
幅5センチ前後のものです。色は黒くなり、形も横長になり始めています。http://img2.blogs.yahoo.co.jp/ybi/1/be/d8/fdsa233/folder/337120/img_337120_12072926_9?1313461842
マシジミでこの大きさはありなのでしょうか?
しかも、この横長の形・・・ドブガイやカラスガイに似ています。


http://img2.blogs.yahoo.co.jp/ybi/1/be/d8/fdsa233/folder/337120/img_337120_12218473_2?1266065750
試食後の殻の内側の写真は典型的なマシジミの色彩パターンで、外縁部が黒く、軟体部が付着する部分は真珠層が発達して白っぽく見えます。

上の謎のシジミは、タイワンシジミの識別ガイドに従えば「種の査定」はマシジミになって、「外来種」とは認定できないことになります。

3月に福島県で被災された方のブログ{鉄魚のブログ}にも大型の淡水シジミが登場します。

2011年1月6日 「特大シジミ」をゲットしたよ!
http://blogs.yahoo.co.jp/horiontrail/archive/2011/1/6?m=lc
1月5日冬休み最後の日近くの川で「特大マシジミ」採取しました。
      私は自然のたくさん残っている所に住んでいます。

このブロガー、鉄魚さんが住んでいた福島県浪江町は東京電力福島第一原発から10キロ圏内です。

3月17日のブログ
鉄魚家族は、全員無事で、東京の弟の[星亀」さんにお世話に成っています。
物は全てを失いましたが、頑張ります。


弟さん「星亀のブログ」にお兄さんから送ってもらったシジミを食べた記事があります。

[淡水しじみ(マシジミ)] 2011年1月7日
http://blogs.yahoo.co.jp/llxhorikawaxll/18557934.html
福島の兄が送ってくれたシジミは、4~5cmも有る大型です
これはマシジミの中でも(ナリヒラシジミ)と言われてる貴重な種類ですね~

鉄魚さんが故郷の豊かな自然の中での平和な生活を取り戻せる日が早く来るように祈りましょう。

本題に戻ります。

タイワンシジミとして河川の侵略者と言うレッテルを貼られているものは、成長が早くて寿命が短く、小さい内に成熟して子孫を残す繁殖戦略をとっているものとされています。環境が不安定な小さい河川や水路などでクローンをつくり急速に増える、というわけです。

それに対し、オグラシジミ(ナリヒラシジミ)は大型になり、おそらく寿命が長いものでしょう。ただ単に、でかくなるだけで同じ種類ジャン、と黒田徳米がこの「種」をマシジミのシノニムにしてしまってから、その特異性が忘れられているようです。

同種と見なされていても、生態的に異なる集団が分化していることを認識することは「保全生態学」の重要なテーマです。オグラシジミについて詳しい調査研究を進めるべきでしょう。

ちなみに、広島県では在来の淡水シジミが「外来のタイワンシジミの侵入で」減少したため、本年度の見直しでマシジミをレッドリストに載せるそうです。前のブログで詳しく説明しましたが、広島県で淡水シジミが見られなくなったのは1980年代の前のことでした。外来種に押されたのではなくて、人間の都合で生息場所が失われたからのはずです。外来種に罪をかぶせておくと行政的にわかりやすいでしょうが、歴史的な事実を曲げて、何が本当の理由であるかを不明瞭にしておくのは問題です。その上、さらに、復活してきた在来種を外来種に誤認して排斥するようになるとすれば、なおさら問題です。
..............................................................................
フィラデルフィア自然史博物館にあるオグラシジミの模式標本のデータです。

ANSP 89366 Corbicula orthodonta Pilsbry 1907
Kind of Type: Holotype
Counts: Dry: 0002 V
Locality: North Pacific Ocean Japan Mie Aichi Prefecture, Honshu Owari Bay (Ise Bay)
Coordinates: 34 43 --N 136 43 --E Source:
Collector: IWAKAWA, T. Date Collected: -- --- 1905
Type/Voucher data:
Date of publication: 1907 Publication: Annot. Zool. Japon. vol.pp.fig: 6:156

1 handwritten catalog records found
ANSP 89366 Corbicula orthodonta Pils.
Counts: dry: 12 V, alc: Original number: 7
Locality: Owari, Japan
Depth: Elevation: Station number:
Collector(s): Iwakawa, T. Date Collected:
Collection: Date Cataloged: 09 may 1905
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by beachmollusc | 2011-08-27 13:19 | シジミの仲間 Corbicula

マシジミの稚貝にできる斑紋

マシジミとタイワンシジミを区別する手がかりとして貝殻の色彩が図鑑などで使われています。

同じ集団内の個体間で色彩型(斑紋と色)に多型が見られる場合、殻色を種の分類指標として使うことはできません。(遺伝子頻度の指標には使えますので集団間の類縁関係を推理する手がかりにはなります)

ナミノコガイでは淡水産シジミとそっくりな紫色が殻の内側に現れ、その濃さが3段階に分かれる(濃い、薄い、なし:白)ことも同様です。

キュウシュウナミノコで試みた(結果は未発表)色彩型の異なる個体間での交配結果で、濃い紫色は白色に対してメンデル遺伝で優性対劣性ホモの関係になっていました。中間色はヘテロ接合かもしれませんが、確認していません。

淡水シジミの色彩もおそらく遺伝形質となっているものと想像できます。しかし、雌雄同体で体内(自家)受精し、雄性発生でクローン形成をするものがどうやったら色彩多型の遺伝を見せるのか、全くわかりません。

貝殻の色の発色では、遺伝だけでなく、環境の変化(アワビの殻が餌の海藻の種類で変わことは有名です)で支配されていることもあるので、とても難しいテーマです。そして、発色のオン・オフが話を複雑にします。

餌の中に含まれている原料物質から化学変化で色素を作っていることがその背景にあります。例えば、青と紫系統の色はおそらくエネルギー代謝(光合成や呼吸)に使われている、ポルフィリン環を持つ物質から変化したビリベルジンと呼ばれるものと思われます。アオサンゴの骨格の青色や青魚の青色も同類です。確認のため、貝殻の青色系統の色素の正体を明かす研究が待たれます。

マシジミに話を戻して、本日採集の新しいサンプルで稚貝の時に貝殻の発色が始まる様子をチェックしました。日向市の権現原の用水路から1mmメッシュの網で黄土色の砂泥から採取しました。
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上は同じスケールで4枚の写真を一緒にしています。
上の列の左は5mmクラスで色素帯が出ています。右の3mmクラスでは発色していません。
下の列は死んでいた殻の表側(左)・内側(右)です。個体により、表側の模様が内側に透けて見えるものと見えないものがありますが、内側に不透明層があるかないかの差異でしょう。

このようなマシジミの稚貝時代の殻の発色は、宮崎一老が神奈川県金沢で卵発生から飼育して観察した結果を1936年に水産学会誌に報告しています。

下の模式図は稚貝の色素が現れる様子を説明しています。(本文をその下に引用)
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稚介は始め淡黄色の透明な貝殻を有するが、殼長1.5mm内外に達すると穀頂附近外表に茶褐色の微細な色素が分布する。

而して、稚介期に見られる色帯の攣化過程を見るに、此時代に於ては殻の中央部及び殻頂前後雨端背部に淡紫色の色帯に依り其發生を見るのである。

今便宜上色帯の分布画域を第3圖12の如き記號を以て表はすと、此時代にはDn, Dp,M等が現はれ此内Mが最も顯著でDpは靱帯後方左右雨穀の周邊に生じDaは殻頂より稍前方背縁に分布する(第3圖11)。

殻長2~2.8mm程度に蓮すると更にA, P, V等が各々獨立的に現はれる(第3圖12)。色帯は帯褐色で普通Vが淡い。貝殼の色調は依然淡黄色であるが殼長4mm内外に達すると黄褐色に深まりV, A, P等各々共區域を擴大し殊にA, P等は濃チコレート色になる。

殻長5mm内外になるとVの成長線に沿ふ擴大と同時にA, Pは連絡して殼の下腹部に大なる色帯を形成する。併し乍らMは依然殼頂の尖端及びV等と連絡しない(第3圖13~14)。

殻長6mm内外にして殻頂部及び穀腹周縁を残して全面に紫色は擴大し、同時に殻表の成長線に沿ひ淡緑色の色素が生じ此處に始めて若いシジミの殼表の黄緑色が生する。

紫色の色帯は後に全面を掩ひ穀内の色彩を形成し殻表の黄緑色化は釜々進行する。老成すると殼表の黒色化する事は周知の處である(第3圖15)。


以上の記述と日向市の淡水シジミの稚貝の殻の発色は同様ですが、日向市の場合、個体差が激しいことがわかります。宮崎一老(超大先輩)は同じ兄弟姉妹(雌雄同体)を観察していたので一様な結果を報告したのでしょうが、日向市の野外集団は稚貝の発色にバラツキがあるようです。

タイワンシジミに関する発生と稚貝の色素発現様式の観察報告はありません。

ハマグリとチョウセンハマグリは稚貝時代の殻の形態と色彩・模様の差異がとてもはっきりしています。稚貝の違いは明確なり、と言うことです。

淡水シジミの分類の混乱を解きほぐすために、まずは色彩型の異なる親から生まれ出る稚貝に違いがどうやってできるのか、を確かめるべきでしょう。
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by beachmollusc | 2011-08-26 20:49 | シジミの仲間 Corbicula

忘れられたマシジミ

一般の人が思い浮かべる「シジミ」のイメージは、貝の色は黒く、宍道湖など海水が差し込む汽水域で採取されて流通している「ヤマトシジミ」でしょう。

それに対して「マシジミ」は純淡水産であり、漁業の対象とはなってこなかったが、里山の水田の用水路や小川で採取され、自家用に消費されていた貝です。

これら2種のシジミ類は種類が異なり、繁殖生態が異なります。ヤマトシジミは雌雄が別々で卵と精子を水中に放出して受精した後、幼生が発生して水中を漂い、しばらくしてから底に沈んで定着し稚貝となります。それに対し、マシジミは雌雄同体で、体内で(自家)受精し、鰓にある育房の中で幼生が育ち、稚貝が放出されます。ただし、宮崎県小林市のマシジミは体内での保育だけでなく、受精したばかりの卵を体外に放出する「放卵」をすることが藤原次男さんによって発見されました(1975年に論文発表)。

マシジミは(北海道を除き)全国の河川、特に小川に分布していました。

1919年に出版された日本産(当時の植民地、台湾を含む)シジミ類の標本リスト(東京帝室博物館、自然史収蔵:現在は国立科学博物館に引き継がれている)がオンライン・アーカイブにあります。

Catalogue of Japanese Mollusca in the Natural History Department, Tokyo Imperial Museum / by T. Iwakawa.

http://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/13147

シジミの仲間のリスト(276-280頁)をダウンロードした画像です。
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細かい産地情報はありませんが、マシジミの標本が全国から集積されていたことがわかります。

マシジミとヤマトシジミは共に日本産の標本を元に1864年に新種としてPrimeが記載しました。その論文も上と同じBiodiversity Heritage Libraryサイトにアーカイブされています。

Annals of the Lyceum of Natural History of New York.
http://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/15987
マシジミとヤマトシジミの記載は68-69頁にあります。下はその画像です。
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ヤマトシジミの記載で殻の色について見ると:
The epidermis is very highly polished and varies from greenish-brown to blackish-brown, or even black; it is lighter in the young specimen.
殻の外側の殻皮の色は強い光沢があり緑褐色から茶褐色、また黒色のものもある。若いものは色が薄い。

The interior of the shell is pale violet.
殻の内側は薄紫色。

それに対し、マシジミについて見ると:
The color of the interior is violet.
内側の色は紫。
The epidermis is polished and of a pale greenish color.
殻皮は磨かれていて薄い緑っぽい色。

以上のように、色彩的な特徴が書かれています。

ヤマトシジミについて成長に伴う変化と個体差が書かれていますが、マシジミについては集団による(地域や環境の違いによる)殻の色の変異は何も書かれていません。

マシジミの模式標本(上の記載に使われた標本)はスミソニアン自然史博物館のUSNM No. 122429という標本番号で登録、保管されているそうですから、実物の確認は可能でしょう。

<追記>

USNM 122429はスミソニアン自然史博物館のオンライン・アーカイブで画像と採集データが公開されています。

http://collections.nmnh.si.edu/search/iz/
.Catalog Number: USNM 122429

Scientific Name: Corbicula leana Prime, 1864
Type Citations: Taxon Type Status Citation
Corbicula leana Prime, 1864 Holotype
Classification: Animalia, Mollusca, Bivalvia, Corbiculidae
Common Name: Bivalves
Collection Name: Lea collection
Object Count: 2
Collector(s): Wilson
Country: Japan
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...........................................................
日本の在来のマシジミについて貝殻の色彩や形態の地域差などについては、ほとんど情報がありませんが、国立科学博物館とか、京都大学の臨湖実験所で集められた古い標本が総合博物館に残されているはずなので、それを見ればわかるはずです。また、フィラデルフィア・科学アカデミーの自然史博物館にも日本産シジミ類の古い標本が多数あります(Pilsbryが新種にしたマシジミの変種、アワジシジミとオグラシジミも含まれます)。

全国的にヤマトシジミと見かけが異なるシジミが外来種と認識されている背景には、在来のマシジミが復活しているからかもしれません。それは里山の水辺の自然の崩壊と共に記憶から失われたマシジミのイメージがヤマトシジミのイメージに短絡しているからかもしれません。
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by beachmollusc | 2011-08-25 18:57 | シジミの仲間 Corbicula

マシジミの放卵

藤原次男さんは、2009年の著書「マシジミはびっくり箱の玉手箱」の前に「シジミ貝からの伝言」という本を同じ鉱脈社から1995年に出版しています。それには、マシジミの放卵の発見の経緯について詳しく書かれています。著者は生物学はアマチュアですが、宮崎大学農学部の池末(イケマツ)教授に助けてもらって、1975年に最初の研究成果を貝類学雑誌に報告しました。

現在、日本各地に、藤原さんの志を受け継いで在来マシジミの復活に取り組んでいる人たちがいます。

毎日jpのニュースサイトで大分県の淡水シジミの人工繁殖にチャレンジしている方の話題があります。

マシジミ:稚貝養殖に成功 好物の藻を特定--玖珠町の尾方、後藤さん /大分 
2011年8月17日
http://mainichi.jp/area/oita/archive/news/2011/08/17/20110817ddlk44040438000c.html

尾方さんは自身の遊休農地の利用法を探るうち、それまで胎生と考えられていたマシジミも卵を産むことを突き止めた藤原さんの著書を読み、「昔どこにもいた玖珠地方で復活を」と一念発起。友人の後藤さんと昨年3月から趣味として研究を始めた。藤原さん方で研修を受けた後、後藤さん方の小屋に水槽を置いて地下水を引き、多様な餌で試行錯誤。今年5月にふ化した赤ちゃんは7月には稚貝となり、現在、直径0・6ミリに育った。


上の記事になった元の情報は:八幡地区自治組織運営協議会(大分県玖珠町八幡地区は玖珠町の北西に位置した静かな山村です。)サイトの中に記録されています。

マシジミ繁殖挑戦記
http://www.yahata-zitisosiki.jp/sizimi.html
から一部抜粋して引用します。

大分県玖珠町八幡の里にも以前シジミは生息していたそうです。近くの方に聞いたところ、太田松信の水路にも昔アサリ位のがはたくさんいたとのこと。昔居たという処でシジミを探しましたが、全く見当たりません。私の母の実家では、庭の中に小さな水路が通っていました。それにシジミが居たのを覚えています。しかし、日本が豊かになって砂利道だったのが舗装道路に成りました。この時アスファルトの油分が沢山井川に流れ込んでシジミは居なくなってしまいました。
シジミは居ました
玖珠町八幡の里にもシジミは細々と生き残っていました。探して見ると数か所に生息して居ました。あろうことか我が家の裏の水路にも居たんです。秋に成るとほんの僅かの湧き水しかないその水路に!!これらのシジミを何とか増やせないだろうかと、友人と二人で試行錯誤しているところです。そもそもシジミはどうやって繁殖するのでしょうか。

昨年6月からの奮戦の記録を見ると、この大分の山間部で見つかった淡水シジミは宮崎県小林市のものと同様に「放卵」して繁殖しました。

外来種のタイワンシジミについて「放卵」の記録がありません。

調べていないだけ、見落としかもしれませんが、移入した先で繁殖生態の研究が各地で大勢の研究者によって数十年前から行われてきたアメリカにも情報がないので、おそらく放卵しないで体内受精による「卵、稚貝保育」だけでしょう。

宮崎のマシジミは保育もしますが、ほとんどの卵を集団で一斉に体外に放出することが藤原さんと池末教授の研究で明らかになっています。放出はストレスによる未熟卵のロスではなく、野外の池の集団で確認されています。ただし、放卵された時点で卵はすでに発生を開始していて、つまり、受精は体内で、自家受精で繁殖します。

池末弥,山根伸一.1977
マシジミの生態に関する研究 III ― 周年性産卵と生殖巣内自家受精について
日本水産学会誌 , 43:1139-1146.
http://www.affrc.go.jp/jasi/161462.pdf

この報告を読めば、在来のマシジミの極めて旺盛な繁殖力が理解できます。外来の近似種に対して繁殖競争で圧迫されるとは思えません。

もし、日本在来のマシジミが特異的に「放卵」するならば、外来集団と区別する手がかりの一つになるかもしれません。このような生物の研究では飼育による実験観察が特に重要です。

アメリカでタイワンシジミの繁殖生態を調べた論文の例です:

Spawning and early development of Corbicula fluminea (Bivalvia: Corbiculidae)
in laboratory culture.
King, CA | Langdon, CJ | Counts, CL III
American Malacological Bulletin. Vol. 4, no. 1, pp. 81-88. 1986.

The Asiatic clam, Corbicula fluminea (Mueller), was maintained on the
estuarine diatom Skeletonema costatum (Greville) in a recirculating
aquarium system at 24 to 25 degree C. Salinity varied from 0 to 8 ppt.
Live weight of C. fluminea increased from 3% to 179% of initial weight
during four months of laboratory culture. The animals then spawned;
sperm were ejected out of the exhalent siphons and fertilized eggs
were retained in the gills. The first three zygotic divisions occurred
1, 3, and 5 hours after spawning (sperm release), and trochophore
larvae developed after 14 hours. Pediveligers were released from
parent clams in 4 to 5 days, and metamorphosed to juveniles about
12 hours later.  (後略)

アメリカでタイワンシジミは鰓の中の育房に受精卵を保持し、それが餌を食べる能力がある仔貝となってから体外に放出しました。

上の報告の著者の一人、Counts, CL IIIさんはシジミ類の文献リストをオンラインで公開しています。
www.carnegiemnh.org/assets/science/mollusks/corbicula.doc

CORBICULA AN ANNOTATED BIBLIOGRAPHY 1774 - 2005
Clement L. Counts, III
Department of Biological Sciences
Richard A. Henson School of Science
Salisbury University
Salisbury, Maryland 21801

上のリストには藤原さんや池末教授の報告が注釈付きで掲載されています。

1975年に発表されたそれぞれの最初の報告のタイトルと内容が書かれていたので紹介します(後続の報告についてもリストにあります)。

Fuziwara, T. 1975. On the reproduction of Corbicula leana Prime.
Venus, Japanese Journal of Malacology 34(1-2):54 56.
[Japanese with English summary. Translation, ORNL tr 4186]

The ovulation of Corbicula leana Prime, 1864, which was believed to
be a viviparous species, was observed in the laboratory and in outdoor
culture ponds. Clams were found to ovulate throughout the year in
aquaria whose temperature was greater than 19oC. Fertilized eggs
developed into D stage larvae. Spawning and development to the
D stage were also seen in the culture ponds. Thus, C. leana is both
ovoviviparous and oviviparous. D stage larvae were found within 60
hrs of spawning in water temperatures greater than 20oC. Ovulation
occurred simultaneously in all bivalves kept in both the aquaria and
culture ponds.


Ikematsu, W. and M. Kammakura. 1975. Ecological studies of Corbicula leana Prime
I. On the reproductive season and growth.
Bulletin of the Faculty of Agriculture of the University of Miyazake 22:185 195.
[Japanese. English translation available through NTIS (ORNL tr 4590)]

Corbicula leana, a small ovoviviparous freshwater hermaphroditic bivalve,
is widely used in Japan as a human food and thus has some medical
importance. Bivalves were transplanted to rice fields in Kobayashi City,
Miyazaki Prefecture, for culture in 1970. This paper reports on the
reproductive season, density and growth of young bivalves in aquaculture
ponds. Parent clams brooding larvae and discharged larvae were found
throughout the period of investigation (May through November) when
water temperature was above 15oC. The peak period of reproduction
is from June to October. The biological minimum of a grown shellfish is 12
mm shell length. The number of incubated larvae showed great individual
differences ranging from 1 to 6,900/parent bivalve. This difference was
attributed to differences in the start and/or finish of larval release.
Most D stage larvae are 0.20 0.25 mm in shell length. Discharged larvae
immediately begin benthic life. The density of discharged larvae was high
and reached a maximum of 85,000/m2. The larvae grow rapidly but the
growth rate slows over time and as water temperature drops below 17oC.
The bivalves grow to a commercial size of 20 mm in about 1.5 yr after discharge.

それぞれ原文が日本語だったので、英語に翻訳された文書がアーカイブされています。

Countsさんの自己紹介などが上のアドレスのSalisbury大学サイトで見つかり、ご本人あてにメールを送ったのですが、まだ返事が来ません。夏休みが終わって授業再開が今月末なので、それまで返事を待ちます。

<追加>

「シジミ貝からの伝言」の中で、著者の藤原さんは台湾でのタイワンシジミの養殖について視察旅行の体験談を書き留めています。訪問した年次は書いてありませんが、1979年の(すぐ?)後だったことが本文中の記述から推察できます。

下に引用した1984年の論文は、台湾における貝類養殖の状況をまとめたものですが、タイワンシジミについても書いてあります。タイワンシジミは1970年代後半から急速に増えて、1982年に1810ヘクタールの養殖場で約7500トン生産されたという統計数値が出ています。

Recent innovations in cultivation of edible molluscs in Taiwan, with special reference to the small abalone Haliotis diversicolor and the hard clam Meretrix lusoria.
HC Chen - Aquaculture, 39, 11-27 (1984)
http://ntur.lib.ntu.edu.tw/bitstream/246246/161877/1/05.pdf

台湾は貝類養殖の先進国であって、ハマグリ(論文中にハマグリの学名が使われていますが、実はシナハマグリ)やフクトコブシの養殖生産量は想像を絶するレベルです。1982年の養殖貝類全種の生産量が約5万トンで、その内(シナ)ハマグリは年間1万トンのレベルです。
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by beachmollusc | 2011-08-24 02:58 | シジミの仲間 Corbicula

北アメリカに移入して広がったタイワンシジミ

滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
http://www.lberi.jp/root/jp/bkjhindex.htm
上のサイト内に所蔵文献のリストがあります。センターで文献の閲覧が可能ですが、コピーサービスをしてくれる余裕は無いかもしれません。(試していない)

下のURLで検索、シジミをKWで検索すれば山のように出てきます。
http://www.lberi.jp/lx/crssch.asp

驚いたことに、私が昔から持っている基本文献(アメリカに移入したタイワンシジミに関する総説)が検索で出てきません。

McMahon, R. F. 1983. Ecology of an invasive pest bivalve, Corbicula.
in: Russell-Hunter, W. D. Editor. The Mollusca. Vol. 6: Ecology.
Academic Press, New York, pp. 505–561.

この文献の見出しです。
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1983年の出版で少し古くなっていますが、アメリカで重大な水路障害生物となったタイワンシジミに関する様々な分野にまたがった多数の文献が収録され、まとめられています。この著者は生理学に関するオリジナル研究の成果を発表しています。

本に掲載された生きているタイワンシジミの写真です。
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アメリカでの分布拡大の経過を地図上で追跡(推論)した図ですが、詳細は本文を読む必要があります。
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カナダの太平洋岸で最初にこの侵入者の存在が認められ、その後西海岸で水系に沿って拡大、東海岸に飛び火して広がったというシナリオのようです。経路の実線は推論、破線は想像です。遠くに飛んだのは主に人が運んだものと見なされています。

最初の侵入は中国から移民が持ってきたのではないか、と想像されています。遺伝解析(1980年代は主に酵素多型:アロザイム)で均一集団だったことから、複数の供給源ではなくて、単一集団が入り、それが拡散・拡大したものと、この当時は考えられていました。

1980年代までに、北アメリカでタイワンシジミが生息できる全域に広がったと思われています。内陸と北部で分布していないことは生理学:低温耐性の実験研究で、摂氏2度くらいまでしか耐えられないことから説明されています。(高温耐性については、正常に活動する上限が25度くらいで、30度以上になると死にます:夏に水温が上昇する環境では生息できません)。日本の在来マシジミでは何も情報がありません。

アメリカ北部で見つかった集団は火力発電所などの温排水で冬でも環境温度が上昇している場所に限られるようです。そして、内陸で川や湖からパイプで水を引いて冷却用に使う、火力発電所そして原子力発電所など、さらに浄水場などの取水路で大発生して障害を引き起こしたため、重要問題となり、詳しい調査・研究が各地で大勢の研究者によって行われました。その成果がこの文献でまとめられたわけです。

アメリカに入ったタイワンシジミは宮崎県のマシジミのように放卵はせず、すべて親貝が子を保育します。ただし、日本の在来マシジミについて調査・研究が行き届いていないので、宮崎県の集団が保育と放卵を同時に行う点で特異的かどうかわかりません。とにかく、日本(少なくとも宮崎県)のマシジミがアメリカに移入したのではなさそうです。

タイワンシジミの故郷での調査・研究については、ホンコン大学のMortonがかなりの結果を出し、彼はタイワンシジミとマシジミを同一種と見なしました。この分類問題(タイワンシジミとマシジミは同一種か否か)は今でも尾を引いています。

日本で在来シジミについての基礎研究が乏しいことが現在の外来種の認識で混乱を招いています。生き残っていた在来種が復活しているのか、新規に外来種が入って広がっているのか、それを確かめるのが極めて困難になっていますが、在来集団を外来種と誤認している可能性は否定できないと思います。
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by beachmollusc | 2011-08-22 17:15 | シジミの仲間 Corbicula

広島の里山からマシジミが消えたのは1980年頃だった

生まれ故郷の広島から東京(世田谷区)に移転したのは小学生(1年生になる前、戦後数年)の時でした。引っ越した翌日近所を探索しての帰り道、迷子になっておまわりさんを広島弁で困らせたことを記憶しています。当時の記憶では、焼け野原に焼夷弾の残骸が目に焼きついています。

高校生までは夏休みになると広島の祖父の家(祇園町)に毎年里帰りして、家の近くの安川(太田川の支流の小川)でよく遊びました。ものすごく綺麗な水で、川底は砂でした。岸辺の木陰の下を潜ってのぞくとハヤが群れていました。橋の下で、橋脚の周囲を砂で囲み、細いハリウナギを追い詰めて遊んでいました。その前の冬に海から川に昇ってきたシラスが育ったものです。

大学生になってからは、3年生の時の現場実習で岡山県の水産試験場(当時は高梁川の河口付近にあった)でクルマエビの餌料効果を測定する退屈な作業をして、そのついでに里帰りしたはずです(1964年)。大学4年から大学院の5年間は三浦半島の三崎臨海実験所に住み着いていました。そして1970年に大学院を修了してからすぐ海外に出て、以降、広島のふる里の変化の様子を知らないままでした。

広島のふる里の清流の姿は高度成長期に大変貌をとげたと思います。安川は排水で汚濁が進み、1980年ごろには川がコンクリートで蓋をされていました。祖父の葬儀に沖縄から駆けつけたとき、その有様を見て衝撃を受けました。まさに「生まれ故郷、心のふるさと」を失った心境となって、その後の里帰りは法事と墓参りだけです。

広島女子大学地域研究叢書Ⅰ 「感潮河川の貝類」 新川英明(著) 1980年に印刷発行された書籍、が手元にあります。広島の海水が潮汐リズムで川に差し込む汽水域の貝類の分布、生態を詳しく調べて報告しているのですが、淡水の貝類についても言及しています。

新川の報告でヤマトシジミに関しては極めてわずかな情報しかありません。当時(1970年代)には調査したくても相手がいなくなっていたようです。

本の中のシジミについての部分をスキャンしました。
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情報検索してみると、広島の汽水域のヤマトシジミは漁業対象になっていて、漁業者が船で漁をしているようです。

中国新聞 2011年8月18日
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Tn201108180135.html
太田川シジミの生態にメス
 広島市は17日、有識者でつくる太田川再生フォローアップ委員会(委員長・松田治広島大名誉教授)を市役所で開いた。事務局の市が本年度初めて実施しているシジミの成育調査を中間報告した。

 生息数が最も多かったのは天満川。殻の大きさが3~7ミリの若い貝が多かった。産卵は7月下旬から始まり、8月11日に京橋川以外の4地点で大規模に起きていた。幼生は潮の干満などによって本川の河口まで5キロ地点に集積したとみられる。

 シジミの漁獲量は、1995年の286トンをピークに減少し、環境悪化などで09年は45トンまで落ち込んだ。

 共同調査する瀬戸内海区水産研究所の主幹研究員でもある浜口昌巳委員は「幼生が集まる一帯を中心に成育環境を整え、効率よく再生産できれば漁獲量は上がる」と指摘していた。


上の記事には調査地点の地図と漁獲量のデータが示されています。

新川が研究報告の「おわりに」のところで締めくくっていますが、このような生態分布調査の情報は相手がいるときに行わないと、何がどのように変化したのか、わかりません。つまり、ベースライン・データがとても重要です。長文ですが下に引用しておきます。
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日本の淡水産貝類の生態研究は琵琶湖など一部を除けばほとんどありません。特に里山の水田と小川で昔から人々の生活の一部になっていた、タニシとシジミについては何も情報がないと言ってもよいでしょう。

1980年代までに広島で起こったように、全国の里山の小川で3面張りのコンクリート化と冬は田の水を落とす乾田化が進められ、メダカ、ドジョウ、ナマズの水田で繁殖していた魚が消え、タニシとシジミが消え、一緒にトノサマガエルやホタルまでも消えてしまったようです。もちろん農薬と水質汚染の影響も甚大だったでしょう。

心のふるさとを失った老人達がホタルやメダカを取り戻そうと活動しています。清流のマシジミについては宮崎県小林市で藤原次男さんが「マシジミを日本に復活させる会」を立ち上げ、全国的に賛同者が増え続けているようです。
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by beachmollusc | 2011-08-21 13:55 | シジミの仲間 Corbicula